よみむめも

正しい瞬間に正しいことばを見つけるために

ニコラス・ウェイド(2011)、依田卓巳訳、「宗教を生み出す本能 進化論からみたヒトと信仰」、NTT出版

Abridgment for Me
原題"The Faith Instinct : How religion Evolved and Why It endures"
並行して読んだ本は「アウシュヴィッツの図書係」/アントニオ・G・イトゥルベ(2016)、小原京子訳、、集英社 と、「A3」/森達也(2010)、集英社
別次元の、別の場所の、別の時代の「ヒトの集団」についての読書は「社会人類学史 1.宗教の起源研究」概論と各論の時間になった.

Underlined sentences

「進化論は生物学の土台であり、人間は生物学的世界から離れて生きることができない」
「文化は自律的ではない.人間性は文化のみによって書きこまれる白紙ではない」
社会関係資本は再建するより破壊する方がたやすい」.
「宗教と社会が影響しあって、道徳や信頼の規範を確立していくプロセスがある……宗教によろうとよるまいと、人々はどこにいても自分の社会の道徳規範にしたがおうとするものであり、その規範がどうあるべきかという期待を形成するうえで、宗教は強力な役割を果たしている.こうして確立された規範が信頼の基盤になり、経済活動のみならず多くのことがらがその信頼に依存している」
「詰まるところ、宗教がすぐれているかどうかは、その設計と運用にどれだけ知恵が絞られたかにかかっている.アステカ王国は結局長続きしない体制だった.生贄と貢ぎ物という王国のふたつの目標が、事実上矛盾していたからだ」
「宗教は存続に貢献する強力なシステムだが、その社会知を体現しているにすぎず、社会の知識が不十分であれば宗教も救いにならない」
「むしろ宗教はデュルケムが言うような構造を持ち、社会のニーズにいくらでも適応できる.超自然的存在との暗黙の交渉によって形作られ、そこで超自然的存在は社会の利益を増やすように命じる.当然ながら、その内容は交渉者の技術と発想にに大きく左右される.しかし、まずは交渉が可能なのだと理解することが必要だ」

Intriguing References
Wahington's Farewell Address 1796
「『信』無くば立たず 『歴史の終わり』後、何が繁栄の鍵を握るのか」(1996)/フランシス・フクヤマ加藤寛訳、三笠書房

My Impressions
厳格なオスの平等主義の狩猟採集時代の小集団社会を結束させた「道具」の延長上に、定住生活時代に形成された社会を結束させた「道具」があり、それを「宗教」と呼んでいるということの、社会科学分野、文化人類学分野のダーウィン的(進化論的)検証は、第二次世界大戦で生まれた不幸な解釈で中断されたけれど、再開しているらしい、ということか.
宗教の変容に関する記述のところで、古代ローマ皇帝、古代エジプト王、英国君主、そして日本の天皇が並べられているところは、歴史に疎い私でさえ、雑に感じた.それまでの丁寧な論理の組み立てだっただけに、ちょっと残念.注釈で頑張って欲しかったな.こういうところが研究者とジャーナリストの姿勢は違う.
それにしても、畑を耕す人間の意義を作り損なったアステカ王国の欠陥を知らないふりをする経済、政治は無責任すぎる.5万年前には宗教の素があったはずだということや、結束と対立の両面がデザインされていることや、それから、書かれてはいなかったことだけれど、変異・遺伝的浮動・淘汰という観点から、そこにオス社会があるかメス社会があるかということで生き残った宗教が全然違って来たかもしれないと考えてみたりすることが新鮮だった.そして、ひとりの親あるいはひとつの家庭とか偶々居合わせた社会で、道徳というものが子どもに伝えられている社会はつくづく危ういと思った.