よみむめも

正しい瞬間に正しいことばを見つけるために

ジョゼフ・ミッチェル(2017)、土谷晃訳、「マクソーリーの素敵な酒場」、柏書房

Abridgment for Me
1938年から1942年「ニューヨーカー」誌に掲載された記事をまとめたUp in the Old Hotelからの翻訳.禁酒法施行前後のの飲兵衛たちをとりまくニューヨークの風景の中で著者がクローズアップした個性的な人々のこだわりを取材したもの.

My Favorite Expression
カトリックのやつらは食うよ.この前の木曜の晩、ブルックリンのビーフステーキに行ったのさ.まっとうなカトリックだよ.それが11時50分になったら、やつらは時計を止めたね.カトリックは金曜日には肉を食えないから」(5ドルでたらふく)
「私はよそ者には同情しないけど、浮浪者は世界一要領の悪い泥棒だからね.ぜったいに捕まるし、誘惑から気を反らすのがいちばんなのよ」(メイジー)
「チャーリー船長の話に耳をかたむけると、まさにそんな気分になる.それこそ頭に牛がぶつかった気がするのだ.」(頭に牛がぶつかって)

Intriguing References
The Bottom of The Harbor ニューヨーク湾の底(「港の底」)
Joe Gould's Secret (邦訳なし?)

My Impressions
児島湾をこういうふうに描いてみたかった

アーシュラ・K・ル=グィン(1978)、小尾芙佐訳、「闇の左手」、早川書房

My Favorite Expression 


「原始と文明は、同じものの段階の差に過ぎない.もし文明の反語があるとしたら、それは戦争である.この二つについて言えば、どこの世界もふたつのどちらかにあてはまる.両方ではなく.チベの熱狂的で退屈な演説を聞いていると、彼が恐怖と説得によってなしとげようとしているのは、彼らの歴史がはじまる前に彼らが選択したもの、つまり文明か戦争かの選択をむりやり変えさせることではないかと思われる.」


Light is the left hand of darkness and darkness the right hand of light.
Two are one, life and death, lying together like lovers in kemer,
like hands joined together, like the end and the way.


「シフグレソル?あれは影という古語からきている」


「インとヤン.光は暗闇の左手……これはどういう意味だろう?光.暗闇.恐怖.勇気.寒.暖.男.女.これはあなたのことだ、セレム.二人であり一人である.雪上の影」

 

Intriguing References
デューン砂の惑星フランク・ハーバート山岸真の解説より)

My Impressions
「旅に終局の目的があるというのはいい.しかし究極的には旅そのものに意義があるのだ」追っ手を避けるべく、そりで行く雪原、氷原を1300kmを超える行軍の途上にある旅人に言わせるんだものなあ、凄いなあ.
難解な「崇高について」のカント先生の目を盗んで読んだ.17年という時間をかけなければ到達できない世界からやってきた異星人の存在を受け入れること、こういうのを崇高というのですか、先生?

中島岳志(2017)、「親鸞と日本主義」、新潮社

Abridgment for Me

親鸞思想と国体論受容との関係、一般意思なき「国民」の誕生と、期待に続く絶望と煩悶、この時代に培われた精神に気づくこと無く忖度を重ねて作られた歴史について.

My Favorite Expression

親鸞は「自分は真理を知っている」「自分は正しい」と言う人にはめっぽう厳しく、「自分は真理を把握することなんてできない」「何が正しいかわからない」と悩み苦しむ人に、とびっきりやさしい.

「となりの親鸞

My Impressions

ときどき想像するのだけれど、天下国家の動向の根っこには、やっぱり小さいひとりの人間の良く似た苦悩があるって教えてもらった感じです.そういうひとりひとりが、妙な具合に意気投合して、厄介な方向に時代がひきずられないように、結局念仏を唱えながら今日の一日を無事に過ごす、ということくらいしか思いつかないや.

菱木政晴(1993)、「浄土真宗の戦争責任」、岩波書店

Abridgment for Me
1990年4月の表白で「他力たのみたてまつる悪人、もっとも往生の成因な」る真宗の信仰に拠る自己批判がなされていないことに対する告発.


My Favorite Expression
「わが身のわろきをしることが仏法を聞いたことの利益だ」
「真俗二諦論自体が間違っていると告白するか、それを浄土真宗の中心としたことが間違っていると告白するかでなければどうにもならないのではないだろうか」
「宗教活動とは、宗教機能を用いて世俗的な目的を達せようとすること」

 

Intriguing References
歎異抄

 

My Impressions
薄い冊子に盛り込まれた過激な確信.ある種の被害者的表現の「加担」「協力」でなく、強気に媚び追従しない者たちを切捨てる教義を育てて来た歴史と、それに基づいて積極的に侵略戦争を進めた事実を反省すべきところが為されていない、と書いてあった.
靖国神社の教義、ここに手を合わせることの意味がわかりやすく解説されていた.この国家神道的価値観が、健在していることが色々な社会現象から思い浮かぶ.私の中にも知らずに浸透しているのはどの感覚だろうか?と振り返ってみる.
墓場に自分の嘘(歴史の欺瞞の一部)を持って行くことを止めないと、この先浸透し続けるのだろうな.

小野不由美(1998)、「屍鬼」、新潮社

Abridgment for Me

人の世の話.

信仰、孤独、理想、本能、欲求、摂理、秩序、執着、憎悪……ありとあらゆる面から、人の世を残酷な視点で切り刻んだ小説.

 

My Favorite Expression

「真に不思議なのは人という命の由来ではないんです.人という器の中に宿った人格の由来なんですよ.それはいつから芽生え、いつ終わるんでしょうね.」(静信に沙子を託す人狼、辰巳の言葉)

 

My Impressions

よりに寄って顔に大きな怪我をした息子が手術のための入院をする前日に、怪我人当人から教えてもらったアニメーションの原作を1年後に読んだ.想像していた通り、人が作りだす現実が酷くあぶり出されていたし、日常の、普通の人々の意識上、下に積もるものが何かの拍子に変容して非日常になる現象が非現実的と限らない、と小説内で何度も感じさせられた.読み終えて改めて、多様な「自分」である人々が、それぞれに人を愛することができるポジションを見つけ出して参加する人々が作る社会を希望するよ.

レン・フィッシャー(2006)、林一訳、「魂の重さの量り方」、新潮社

Abridgment for Me

16世紀末から17世紀という時代の教会またはジュリオ・リブリ(シンプリチオ)とガリレオ(サルヴィアティ)の間にあった「宇宙」、20世紀初めのダンカン・マクドゥーガル博士の瀕死の肉体の計量、1990年に入ってからのH・ラヴァーン・トワイニングのマウスの計量……見えないものの計測に注がれた情熱、その中から生まれた「物質とは何か」「魂とは物質か」「私が測定した質量は何か」という問い、18世紀のヘンリー・ヤングの実験とニュートン支持者(ヘンリー・ブルーム・ジュニア)の罪深い信心、17世紀の錬金術に没頭した人々と流行(常識)、ロバート・ボイルの心に秘められた錬金術信仰と「錬金術師ヘニング・ブラントの実験結果の無断流用」、18世紀後半のアレッサンドロ・ボルタボローニャ大学の解剖学者ルイジ・ガルヴァーニ、そして彼の甥のアルディーニの接触電位の実験……などなど、何せ感動的に有名無名(私が知らないだけの人も含めて)の登場人物が多くて目が回る.

My Favorite Expression, problem phrase

「これまで発見されたどのエネルギー変換も、どのエネルギー輸送過程も、浪費を含んでいる」

Intriguing References

『新科学対話』ガリレオ・ガリレイ

My Impressions

戦い最中の実験者、研究者たち、それをとりまく支持者や流行から生まれる様々な価値観や人々の生活、感情とは関係なく、誰も彼も実験と試行錯誤が、時間を越えれば協力しあっているという事実を、ヒトというのは、なかなか受け入れようとしないものなのね.

アンドレア・ウルフ(2017)、鍛原多惠子訳、「フンボルトの冒険 自然という〈生命の網〉の発明」、NHK出版

Abridgment for Me
自分の目で見たい、自分の感覚で確認したい、自分が見たこと、感じたことが独りよがりではないことを証明したい、伝えたい、という情熱を89歳で亡くなる瞬間まで絶やすことがなかったアレクサンダー・フォン・フンボルトと、彼の情熱に負けるはずがない人々(チャールズ・ダーウイン、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテシモン・ボリバルヘンリー・デイヴィッド・ソロージョージ・パーキンス・マーシュ、エルンスト・ヘッケル、ジョン・ミューア)の冒険物語

My Favorite Expression
自然にかんするそのような本は、自然そのものと同じような印象を与えるものでなければならない(「コスモス」執筆前の構想)

Intriguing References
フンボルト自然の諸相 ── 熱帯自然の絵画的記述』(2012)木村直司編訳、筑摩書房
Die Kosmos-Vorträge (1827/28)
『新大陸赤道地方紀行』(2001)大野英二郎、荒木善 訳、岩波書店
ダーウィンの『種の起源』』(2007)ジャネット・ブラウン、長谷川眞理子訳、ポプラ社
ファウスト』(1969)大山定一訳、筑摩書房
My Impressions
フンボルトの目になって今の環境を悲観することはお手軽なんだけど、フンボルトの楽観を真似して、残されている自然とヒトとの関わりを「見てやろうじゃないの」と鼓舞する方を選びたいね.フンボルト先生に敬意を表して.子どものころに「読まされた」教科書的なものとは違う、面白い伝記が発刊されるようになって嬉しい.

ところで、マーシュ(フンボルト心棒者のひとり)が「人間と自然」で書いたという「地球は急速に、そのもっとも気高い住人の住処に適さない場所になりつつある」という表現はいただけない.

そうではなくて、ヒトは地球に住むに適するような気高い住人ではなくなろうとしている、とか

もう、その気高さを望まなくなっている、とか、

気高さを志す社会をヒトが諦めようとしている、とか、そういうことだと思うからな.